ファクハク余韻①(株)岳南木工商会
工業都市…………というよりも、支店都市の性格が強い、愛すべき我らが静岡市。
初めて、オープンファクトリーイベントが開催されることになった。その名も「ファクハク」。
最初知ったときも「……?」みたいな感覚でいたけれど、やっぱり気になるのでボランティアスタッフに手を挙げた。
この街で、オープンファクトリーイベント、やるんですか…………?
7本/日しかないバス(土日祝運休)に揺られて
安西橋からおはようございます
— Mihi Rope (@mihirope) November 17, 2023
オープンファクトリーめぐりの一件目に向かっています pic.twitter.com/M8doe6syDc
千代慈悲尾線に乗って、静岡駅から20分弱。バスを降りて10分も歩かないところに、岳南木工商会さんの事務所と工場があります。
「岳南」を社名に冠していますが、ちゃんと静岡市内。岳南電車がメジャーになったので富士市周辺をイメージしますが、ちょっと前の世代だと静岡市でも「岳南」という名称を使ったりします*1。
生憎この日は朝から雨。真横を流れる日影沢川も濁っていました。
岳南木工商会さんは、木製救急箱で国内トップシェアを誇る木工製品メーカー。
四隅に縞々模様で表れる「コーナーロッキング(あられ組み)」が最大の特徴。よく記念品の枡にもあるものです。が、侮ることなかれ。
カタログのない木工屋さん
工場には様々な木材がストックされています。これは撮影OKだった一角の写真で、NGだった倉庫の中には、種類も産地も厚さも様々な木材が、本当に山のごとく積みあがっていました。
ここは単なる木工製品のメーカーではなく、企画者の依頼を受けて様々な製品を小ロットから形にする、オーダーメイド特化の木工製品メーカーです。
だから、カタログもなければ、在庫を抱えることもありません。
ただ、木材は依頼があってから製材を発注するのでは時間がかかってしまう。だから、このように様々な木材をストックしているのです。
ひとつとして同じ機械のない工場
年季の入った裁断機。なぜか「古い」という印象は感じません。
工場の中には様々な機械が配置されていますが、ひとつとして同じ機械は無いように見えます。大量生産をしないから……だけでなく、依頼に対して柔軟に対応できる体制の表れなのかな、と思いました。
工場の従業員の方々も、すべての機械を取り扱うことができるとのこと。個々人の得意不得意と照らしながら、製品ごとに担当を分けていきます。オーダーへの応え方は、完全に個々人に委ねられていますし、委ねても大丈夫なように工場ができています。
でも、刃がむき出し。電子回路の入った機械はひとつしかありません。フールプルーフは手元に委ねられています。常に細心の注意を払わねばいけない工場でもあります。
私たちがまだ知らなかったコーナーロッキングの世界
高く積みあがった、救急箱のたまごたち。コーナーロッキングは実に22段で組み合わせています。
企業秘密でここも撮影NGでしたが、ロッキングカッターも見させてもらいました。他社さんのホームページにも記載がありますが、一つひとつの段をくりぬく刃の調整が難しく、それだけで数日溶けることもしばしばあるのだそう。
だから、写真に映っている箱たちは、その手間をいっぱいに受けた箱たちなのです。ここから更にカンナ掛けの工程が待ち受けています。
円盤に付いた刃が回転して、木枠の天面と底面を揃えていきます。
木枠の幅は一定なので、まるで紙テープのようなおがくずが、機械にも床にもいっぱいに。単なるおがくずですが、ここまで積みあがってきた技術の片鱗が見えるような気がします。
適材適所
同じ樹種でも、産地によって特色が大きく変化します。
例えば上の画像。左側は確か吉野杉だったはず。右側はオクシズ材です。
素人目に見ても、木目の入り方が違う。やっぱりブランド材は相応の品質があるのです。
…………だからといって、ブランド材が常に優れているわけではありません。
木材も自然素材です。湿度の高いところでは水分を吸収し、乾燥したところでは水分が抜けます。
例えば、木造住宅の骨組みに使う木材。伐採してきたところと、住宅の骨組みとして使うところで環境が大きく異なると、思わぬゆがみ方をするのだそう。
だから、木材もできるだけ地産地消したほうが、製品や家屋として長く使い育てていくのに向いている、ということらしいです。
今なぜ「木工製品」なのか
ニトリやIKEAなど、安価な家具が出回るようになった昨今。そのほぼ全てが「フラッシュ板」と呼ばれる、中が空洞だけど木板に見える材料でできています。
大量生産・大量消費は、現代のニッポンが成熟社会である証左かもしれません。
しかし、「成熟した社会を〈つくる〉〈続ける〉」こととは同値なのでしょうか。
工場見学の最後に本田社長は、「今の日本には長く育てるという文化がない」と仰っていました。だから、長く育つもの=木製品に、幼いころから触れてほしい―――その思いに共感してくれる業者さんとの取引を、大切にされているのだそうです。
他にもいろいろなものを見させていただき、いろいろなお話を聞くことができ、実りの多い時間になったのですが、その全てを言葉にするのは難しい……と、久々に頭がパンクしそうになりました。
見学できる機会があれば、皆さんもぜひ足を運んでみてください。
次の記事はこちら。
*1:一番よく知られているのは、某校生徒の伝統チラ見せみたいな呼び方。