海図の裏紙

我が身に降りかかってきたことをつらつら書きます。

ファクハク余韻③ナガハシ印刷(株)

前回の記事はこちら。

 

 

印刷工場について

東京の鉄砲洲や小石川、早稲田鶴巻町の周辺は、古くから小さな印刷工場がひしめいているのは、既に周知のとおりです。大きな印刷工場の周辺だったり、水を得やすい立地だったり……ザ・東京な地理事情がうかがえます。


では、静岡の場合はどうでしょう。ちゃんと調べていないので何とも言い難いものの、「一定の集積を帯びながら、市街地郊外の複数箇所に分散していた」というのが、今のところの私の予想です。

床面積等の規模にもよりますが、印刷工場が立地するには、最低でも都市計画の用途地域で「住居専用地域」は避ける必要があるので、特に居住用途に供する土地が少ない静岡市だと、機械更新に伴う移転ともなると場所が絞られます。

 

今後の研究課題ですね。公私ともに印刷会社さんにはお世話になっているし。

 

印刷機との初対面

今回訪ねたナガハシ印刷さんも、上に考察した通り戦後から静岡の産業を支えた印刷屋さんです。最初は新川越町*1で、その後は中島への移転を経て、平成初頭に現在の安倍川駅東側に拠点を構えます。

郵便番号が5ケタ、市外局番が4ケタ。平成初期を感じます

 

でっかい印刷機。我々が輪転機と呼んでいるものの、もっと格が上のもの。

製版の上にインクを落としたものは、一度銅板の上に移され……

 

確かこのあたりで紙へ複写されると教えてくれたはず。版から直接紙へは写しません。

 

最初のうちはまるで一つひとつの動作をぬるぬると確認するがごとく動く複写機も、すぐにスピードアップ。目にも止まらぬ速さで紙が送られていきます。

 

最初に出てきた印刷物が左側。微妙なズレは、技工さんの手で調整されていきます。

 

裁ち落とし線を見ると、なるほどシアンが大きくずれている。

 

ちなみにここまでが多色印刷機の様子。もうひとつ、二色印刷機があります。

機械の見た目はさほど変わりませんが、大きく異なるのがこの工程。

…………?

 

…………!!!!

 

二色印刷用のインクは、なんと「手練り」です。

シャカシャカシャカシャカ…………

 

ほら、前回のインクとほぼ同じ色になりました。すごいな。
そんなわけで、二色印刷機から出てきたインクは、ルーペで見てもCMYKのドットが見えないのです。そりゃコストも全然違うなぁ。

 

その二色印刷機を使って作られている大ヒット商品が……

こちら。いいかげんノートです。

 

「当たり前」の裏側へのいざない

印刷の出力サイズのひとつに「菊版」というものがあります。
その由来がまたおもしろい。新聞紙サイズを指す言葉ですが、新聞→聞く→菊……という説があるのだとか*2

 

丁寧に印刷された印刷物は、それこそほぼ毎日手にするもの。でも、それらがどうやって現物になるかは、私はあまり想像したことがありませんでした。もっぱら、ローカルメディアとかzineとか、内容のほうには興味が向きやすいけど。

 

木製家具・水産物・農産物・印刷物に限らず、ファクハクを通して6件の工場見学を体験させていただきました。

実際に今この瞬間も働いている人がいる工場。私が修論で取り扱った分野も同じですが、部外者が「おもしろがって」大丈夫なものだろうか……という気持ちは、割と今も変わらずに持っています。

でも、自ら知っている世界を拡張していくことで、物の見方はずいぶん変わるんだな、ということを再認識したファクハクでした。なにより面白いし。
もちろん、分野ごとにキュレーションできる人の存在は必要だと思いますが、「まずは見て感じて、それから考えよう」ということも、大事なのかもしれません。

 

このまちのまだ知らない世界を見せてくれたファクハク。来年もあるといいな。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

*1:ちなみに新川越町という町丁目は、過去一度も静岡市史に登場していません。新通川越町の間違いでしょうか?現在の新通二丁目・川越町にあたります。

*2:一般的には、舶来品の原紙に描かれていたダリアの花が、菊の花を想起させたことが由来ともいわれています。